一杯のコーヒーに深い味わいや独特の香りが宿る理由、気になったことはありませんか?その秘密は、選ばれた「精製方法」に隠されています。
それぞれの精製法が、豆の持つポテンシャルをどのように引き出し、味わいを作り出すのか。この記事で詳しく説明していきましょう。
コーヒーの精製方法とは?
- コーヒーの精製とは?
コーヒーチェリーからコーヒー豆を取り出す一連の工程を指します。
この過程は、コーヒーチェリーという果実の中にある種(コーヒー豆)を取り出し、適切に乾燥させて保存できる状態にするまでのことを言います。
精製がもたらす影響
コーヒーの精製法は、コーヒー豆の味わいや品質に大きな影響を与えます。
各精製法によって、豆の風味、甘さ、酸味、苦味、アロマ(香り)、ボディ(口当たりの重さ)、アフターテイスト(余韻)といった要素が変化します。精製法の違いは、同じ種類、同じ産地のコーヒーでも全く異なる風味のコーヒーを生み出すため、その重要性はとても高いです。
たとえば、果肉をしっかりと取り除くウォッシュド法では、豆自体の風味がよりクリアに引き立ちます。一方、果肉を一部残すパルプドナチュラルや果肉ごと乾燥させるナチュラルでは、果肉から豆へと甘みや風味が浸透し、より豊かな風味が生まれます。
精製方法の種類とその特徴
ウォッシュド(水洗式)
ウォッシュド精製法は、収穫直後に果肉を完全に取り除き、残った豆だけを乾燥させる方法です。水洗い機を使用して果肉を取り除き、その後、水槽で発酵させます。この発酵によって豆の表面に残った粘膜(ミューシレージ)が自然に分解され、その後、水で洗浄して乾燥させます。
この方法では豆の風味がクリアに引き立つため、豆本来の風味や酸味をダイレクトに楽しむことができます。その一方で、大量の水を使用するため、環境負荷が問題となることもあります。
パルプドナチュラル(半水洗式)
パルプドナチュラル精製法は、ウォッシュド法とナチュラル法の中間のような方法です。収穫直後に果肉を機械で取り除き、その後、豆についた粘膜と一緒に乾燥させます。
乾燥後に粘膜を取り除くため、ナチュラル法ほど発酵が進行せず、コーヒーの風味はフルーティさとクリーンさのバランスが取れたものになります。
スマトラ式(ウェット・ハリング)
スマトラ式精製法、別名ウェット・ハリング(wet-hulling)法は、インドネシアのスマトラ島で主に用いられている特殊な精製法です。この方法は、ウォッシュドと似ている部分もありますが、独特の湿度管理が特徴となっています。
まず収穫したコーヒーチェリーから果肉を取り除きます。そして、豆がまだ20-24%の湿度を保持している段階で、粘膜(パーチメント)を機械で取り除きます。通常は乾燥後に取り除くのですが、スマトラ式ではこの段階で取り除きます。その後、さらに乾燥させます。
スマトラ式では早い段階でパーチメントを取り除くことで、豆は外部の環境からの影響を強く受けやすくなります。その結果、独特の地味さや重厚感、スパイシーな風味が特徴となります。また、豆表面が滑らかでなくむらがちなため、見た目にも特徴的です。
アナエロビック(嫌気性発酵)
アナエロビック精製法は、最近特に注目を集めている新しい方法で、コーヒーチェリーを密閉した容器の中で発酵させるという特徴があります。この容器内では酸素が除去され、無酸素状態で発酵が進行します。発酵の進行に合わせて独特の風味や香りが生まれ、非常に特徴的な味わいのコーヒーを生み出します。
アナエロビック精製法によって生まれるコーヒーは、独特の酸味と甘味、フルーティーな風味が特徴で、新しいコーヒー体験を楽しむことができます。
精製方法で何が変わる?
コーヒー豆の精製方法が異なると、何が具体的に変わるのでしょうか?一言で言えば、「風味」と「口当たり」が変わります。それぞれの精製法により、コーヒー豆の風味や香り、そして飲みごたえは大きく変わるのです。それでは、それぞれの変化について詳しく解説しましょう。
風味の変化
コーヒーの精製方法が変わると、最も大きく変わるのがその「風味」です。例えば、ナチュラル法では、コーヒー豆が果肉と一緒に乾燥することで、果肉の甘みや酸味が豆に移るため、フルーティーな風味が引き立ちます。一方、ウォッシュド法では、果肉を早めに取り除くことで豆本来の風味を際立たせ、クリーンで透明感のある味わいが特徴となります。
パルプドナチュラル法やスマトラ式では、果肉と一緒に乾燥させる時間が短いため、ナチュラル法ほどフルーティーさは出ませんが、豆本来の風味とフルーティーさの中間的な風味を楽しむことができます。また、アナエロビック法では、密閉した状態で発酵させることで、特有の酸味と甘味が発生し、独特の風味を楽しむことができます。
口当たりの変化
また、精製方法によっては「口当たり」も変わります。ウォッシュド法で精製されたコーヒーは、豆本来の風味が際立つため、一般的には口当たりがすっきりとしています。一方、ナチュラル法では、果肉の風味が豆に吸収されるため、風味が豊かでコクがあります。
精製方法の選び方
コーヒーを選ぶ際には、産地や焙煎度、品種だけでなく、「精製方法」も重要な選択肢となります。それぞれの精製方法が生み出す異なる風味を楽しむためにも、どの精製法のコーヒーを選ぶべきかを知っておくと良いでしょう。ここでは、どのように精製方法を選ぶかのポイントを解説します。
風味で選ぶ
まずは、自分がどのような風味のコーヒーが好きかを知ることが重要です。
- フルーティーな風味が好きならば:ナチュラル法
- コーヒー本来の風味を楽しみたいなら:ウォッシュド法
- フルーティーさとクリーンさのバランスを楽しみたいなら:パルプドナチュラル法
- 独特の酸味と甘味が楽しみたい、新しい体験がしたいなら:アナエロビック法
- 重厚感のある風味が好きなら:スマトラ式、
など、好みに応じて精製方法を選ぶことができます。
同じ豆で精製方法を変えて比較する
同じ産地、同じ品種のコーヒーでも、精製方法によって風味が変わると説明しました。これを体験するには、同じ豆を用いて異なる精製方法で処理されたコーヒーを試してみると良いでしょう。同一の条件下で精製法だけが違うコーヒーを飲むことで、それぞれの精製方法が風味にどのような影響を及ぼすのか、より具体的に理解できます。
試行錯誤を楽しむ
コーヒーの精製方法を選ぶ際は、試行錯誤を楽しむことも大切です。自分が好きな風味の範囲を広げたり、新しい風味を発見したりするためには、さまざまな精製方法のコーヒーを試すことが必要です。
その中で自分だけの「好み」を見つけることができれば、コーヒーの楽しみ方はさらに広がります。
よくある質問
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Q 最も美味しい精製方法は何ですか?
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A
一概には答えることが難しいです。なぜなら、どの精製方法が最も美味しいと感じるかは、個々の味覚や好みに大きく左右されるからです。
どの精製方法にも良さがあり、自分が求めている風味の精製方法を選ぶことが重要です。
ナチュラル法であれば、果実の風味を最大限に引き出した豊かな味わいを楽しむことができます。対照的に、ウォッシュド法では、クリーンでバランスの良い風味が特徴です。パルプドナチュラル法はその中間で、果実味と清潔さのバランスが取れています。アナエロビック法やスマトラ式は、独特の風味や深みを追求しています。
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Q 同じ産地、品種でも精製方法によって風味が変わるのはなぜですか?
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A
これは、コーヒー豆の風味に大きく影響を与える「発酵」の違いによるものです。コーヒーチェリーの果肉に含まれる糖分が発酵し、その結果生じる物質が豆に吸収されることで風味が生まれます。
果肉をどの程度長く豆と接触させておくか(ナチュラル法やパルプドナチュラル法)、果肉をすぐに取り除くか(ウォッシュド法)、発酵の過程をどのように管理するか(アナエロビック法)によって、発酵の結果生じる風味が大きく変わります。
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Q 精製方法が違うとカフェインの含有量も変わりますか?
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A
一般的には、コーヒー豆の精製方法はカフェインの含有量には直接影響を与えません。
カフェインの含有量は主にコーヒーの品種(アラビカ種やロブスタ種など)や成熟度、焙煎度などによって変化します。しかし、精製法によって風味が変わるので、苦味や甘み、酸味といった味わいの違いが感じられることで、カフェインの感じ方は変わるかもしれません。
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Q 自宅で精製方法を試すことは可能ですか?
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A
基本的にコーヒーの精製法は、専門的な技術や設備、環境が必要となります。
特に発酵の管理や乾燥の工程は、適切な温度や湿度の管理が求められ、これらを自宅の環境で達成するのは困難です。そのため、自宅での精製法の試行はおすすめできません。しかし、各種精製法のコーヒー豆を購入して、それぞれの違いを実際に味わってみることは大いに可能です。
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Q コーヒー豆のパッケージに精製方法が書いてあるものと書いてないものがありますが、どういう違いがあるのですか?
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A
コーヒー豆のパッケージに精製方法が明記されている場合、その豆の風味や特性をより深く理解して選びたいという、コーヒー好き向けの商品と考えて良いでしょう。よりこだわりのある品質である可能性があります。
一方、精製方法が明記されていない豆は、一般的な消費者向けで、ブランドや産地、焙煎度など他の要素を重視して選ぶことを想定しています。どちらが良いかは、あなた自身のコーヒーへの興味や好みによるところが大きいです。