皆さんが毎日楽しむコーヒーには、さまざまな精製方法が存在します。その中でも今回ご紹介する「スマトラ式」は、独特の風味と豊かな味わいを作り出すためのユニークな精製法です。
スマトラ式とは、コーヒー豆の精製(処理)方法の一つで、特にインドネシアのスマトラ島で多く行われています。この地域特有の気候条件を活かした、ユニークな湿式処理法で、”ウェット・ハリング”または”ガイリング・バサ”とも呼ばれます。
スマトラ式の工程(ステップバイステップ)
-
選別
収穫したコーヒーチェリーを水に浸し、完熟したものだけを選別します。
-
パルピング
パルパーで果肉を取り除きます。
-
発酵
コーヒー豆を1-2日間発酵させます。
-
洗浄
発酵が終わった豆を流水で洗浄します。
-
初期乾燥
洗浄した後、豆をパティオ(露地)で数日間乾燥させます。
-
二次発酵
乾燥が完全に終わらないうちに、約40-50%の湿度を保ったまま袋に詰め、数週間寝かせます。
-
最終乾燥
豆内部の湿度と外部の湿度が均一になるよう、豆全体が均等に乾燥するまで待ちます。
スマトラ式のコーヒーの味
スマトラ式で精製されたコーヒーは、その独特の製法からエキゾチックな風味が特徴です。
- 全体的に濃厚なフルボディ
- 甘み、酸味、苦味が程よく調和しています。
- スパイスのような香りや、土壌のような風味
- 大地を思わせるフレーバー
これらは豆が土と密接に接触することで得られる、地元の土壌の特性を反映した独特の風味と言えます。
また、乾燥工程の違いから、生豆は深い緑色をしています。その美しさも、スマトラ式の魅力の一つです。
このスマトラ式コーヒーの風味は、あなたのコーヒー体験を新たな次元に引き上げてくれるでしょう。手間暇かけて作られるこの独特のコーヒーは、一度味わうと忘れられない味わい深さを持っています。
スマトラ式が行われる地域
スマトラ式コーヒーと聞けば、その名前から連想できるように、インドネシアのスマトラ島がその発祥の地です。しかし、スマトラ島だけではなく、その製法は他の地域にも広がりを見せています。今回は、スマトラ式コーヒーが生産される主な地域をご紹介します。
スマトラ島
まず最初に挙げるべきはやはりスマトラ島です。スマトラ島はインドネシア最大の島で、その多湿な気候と肥沃な火山土壌はコーヒーの生育に最適な環境を提供しています。島内では多くの地域でコーヒーが生産されており、中でも「マンデリン」や「ラントン・スラン」などの産地名で知られるスマトラコーヒーは、世界中のコーヒーファンから愛されています。
ジャワ島
スマトラ島の東に位置するジャワ島でも、スマトラ式コーヒーの製法が取り入れられています。ジャワ島もまた、肥沃な火山土壌と多湿な気候がコーヒーの生産に適しており、独特の風味を持つコーヒーが作られています。
スラウェシ島
インドネシアを代表するコーヒー産地として、スラウェシ島も見逃せません。ここでもスマトラ式の製法が用いられており、「トラヤ」などという名で知られるコーヒーが生産されています。
その他の地域
スマトラ式の製法は、その風味の豊かさと独特の口当たりから世界中で注目され、中南米やアフリカなど、他のコーヒー産地でも試みられています。
突然の降雨が多く、通常の天日乾燥ができない地域で採用されることが多いです。
他の精製方法との違い
コーヒーの味わいを最終的に決定付ける大きな要素の一つが、コーヒー豆の精製方法です。今回注目するスマトラ式と他の主要な精製方法とを比較することで、それぞれの特徴や違いを理解しやすくなります。
湿式(ウォッシュド)精製との違い
湿式精製は、コーヒーの精製法の中でも最も一般的に用いられる方法です。スマトラ式と湿式精製はどちらも水を利用しますが、処理の流れや結果となる味わいには大きな違いがあります。
湿式精製では、収穫したコーヒーチェリーの果肉を取り除いた後、残った粘液質を発酵によって除去します。その後、豆は十分に乾燥されます。この方法では、コーヒー豆のクリーンな風味と明るい酸味が際立ちます。
一方、スマトラ式では、発酵と乾燥が複数回にわたって行われます。豆は乾燥が完了する前に湿度を保った状態で保存され、その結果、コーヒーの風味に深みと複雑さが増します。
乾式(ナチュラル)精製との違い
乾式精製は、コーヒーチェリーを収穫後、そのまま日光の下で自然に乾燥させる最も古典的な精製方法です。乾燥する間に、果実の糖分が豆に浸透し、フルーツのような甘さと豊かな風味を生み出します。
スマトラ式と乾式精製の主な違いは、果肉の取り扱いと発酵の工程にあります。乾式精製では果肉を取り除かずに乾燥させますが、スマトラ式では初期段階で果肉を取り除き、その後複数回の発酵・乾燥工程を経ます。この過程により、スマトラ式のコーヒーはフルボディで地味さのある風味になります。
乾燥時間の短縮
スマトラ式では、乾燥が4~5日で完了します。ナチュラル精製では、乾燥に10~14日程かかる為、大幅に乾燥時間が削減できていることが分かりますね。
インフラの未整備や、突然のスコール等を避けて乾燥を進めるために生み出された歴史があります。
半湿式(パルプド・ナチュラル)精製との違い
半湿式精製は湿式精製と乾式精製の中間的な方法で、果肉を部分的に取り除き、残った果肉とともに豆を乾燥させます。これにより、湿式精製の明瞭さと乾式精製のフルーティさを組み合わせた風味を生み出します。
スマトラ式と半湿式精製との大きな違いは、発酵と乾燥の過程です。半湿式精製では豆が一度だけ乾燥させられますが、スマトラ式では乾燥の前後に発酵が行われ、さらに乾燥が均一になるまで湿度を保った状態で保存されます。
スマトラ式の歴史
スマトラ式の歴史を理解するためには、その起源から始まる道のりを辿る必要があります。以下に、その起源、発展、そして現在までの経緯を見ていきましょう。
始まり: コーヒーがスマトラにもたらされた時代
コーヒーの栽培がスマトラ島に導入されたのは17世紀、オランダ東インド会社がインドネシアに進出した時代のことです。オランダ人はコーヒーの種を持ち込み、スマトラ島でのコーヒー栽培を始めました。これが、スマトラ島におけるコーヒー産業の端緒であり、以来、コーヒーはこの地域の重要な産業となりました。
発展: 地元の気候が生んだ独特の精製法
スマトラ式という独特の精製法は、地元の環境条件と共に発展しました。スマトラ島の気候は湿度が高く、一年中降水量が多いため、湿式精製や乾式精製に必要な乾燥環境を整えることが難しいという課題がありました。しかし、この難題はスマトラ式という新たな精製法を生み出すきっかけとなりました。
発酵と乾燥を繰り返すスマトラ式は、湿度の高い環境に適応した方法であり、その結果生まれる独特の風味はスマトラコーヒーの大きな魅力となっています。
現在: スマトラ式の評価と展望
スマトラ式は長い間地元で伝承され、小規模なコーヒー生産者によって守られてきました。しかし、その独特の風味がコーヒー愛好家や専門家の間で評価されるようになり、近年では世界的にその名が知られるようになりました。
今日では、スマトラ式は世界中のバリスタやコーヒーロースターから注目を集めています。その風味の豊かさと深み、そして地元の伝統を守るその方法は、コーヒーの新たな可能性を示しています。
これからもスマトラ式は、その独特の風味を楽しむために、世界中のコーヒー愛好家から愛され続けることでしょう。
コーヒー専門家が語る、スマトラ式の魅力
スマトラ式コーヒーは、その特殊な製法から独特の風味が生まれます。そこで、私たちはコーヒーの専門家であるカフェオーナー、バリスタ、そしてコーヒーロースターに対して、スマトラ式コーヒーの魅力について語ってもらいました。ここでは、それぞれの視点からスマトラ式コーヒーの特徴とその魅力を解説します。
カフェオーナーが見るスマトラ式コーヒーの魅力
カフェオーナーとして、スマトラ式コーヒーの一番の魅力はその”深みと複雑さ”だと言います。スマトラ式の特徴である湿式精製法が生むフルーティーさと甘さ、そして土壌がもたらす豊かなミネラル感が絶妙に絡み合い、他のコーヒーでは味わえない深みと複雑さを持つコーヒーに仕上がります。特に、コーヒー好きの中にはこの独特の味わいを求めてスマトラコーヒーを選ぶ人が少なくありません。
バリスタから見たスマトラ式コーヒーの魅力
バリスタの間では、スマトラ式コーヒーは”独特の挽き応えと抽出特性”を持つことで知られています。湿式精製法によりコーヒー豆は充分に水分を含み、それが挽き応えに繋がります。また、スマトラ式コーヒーはミネラル感が強いため、水質や温度による微妙な抽出の違いがダイレクトに味に反映します。それはまさにバリスタの技術が試される、挑戦的な一杯と言えます。
コーヒーロースターが語るスマトラ式コーヒーの魅力
最後に、コーヒーロースターから見たスマトラ式コーヒーの魅力をご紹介します。ロースターにとって、スマトラ式コーヒーの豆は”変化に富んだローストの反応”を見せます。その一因は湿式精製がもたらす豆の内部の水分バランスであり、それがロースト時の熱伝導に影響を与えます。スマトラ式コーヒーの豆は、同じ条件でも様々な風味を引き出すことができ、これがロースターにとって大きな魅力となります。
スマトラ式に関する
よくある質問
-
Q スマトラ式コーヒーの味はどのような特徴があるのですか?
-
A
スマトラ式コーヒーは一般的に、その製法からくるフルーティーさと甘さ、さらには地元の土壌からくる豊かなミネラル感を持つとされています。また、深いコクと複雑な風味があり、余韻も長いと特徴付けられます。
-
Q 他の精製方法と比べてスマトラ式が特別な理由は何ですか?
-
A
スマトラ式は、一般的なウォッシュド(水洗)やナチュラル(自然乾燥)とは異なる、ガビン(半湿式)精製という手法を用います。
このガビン精製法がスマトラ式コーヒーに特有の風味を生む一因となっています。また、スマトラの特殊な気候や土壌条件も、他の産地のコーヒーとは異なる独特の風味を生み出しています。
-
Q スマトラ式コーヒーはどのように淹れるのがベストですか?
-
A
スマトラ式コーヒーの味わいを最大限に引き出すためには、フレンチプレスやドリップ式が推奨されます。
フレンチプレスは、コーヒーの油分を逃がさずに抽出するため、スマトラ式の豊かな風味とコクを存分に味わうことができます。ドリップ式は、微細な味の違いを引き立てるため、スマトラ式コーヒーの複雑な風味を楽しむのに適しています。
-
Q スマトラ式はどのような人にオススメですか?
-
A
スマトラ式コーヒーはその深みと複雑さから、新しい風味を求めるコーヒー愛好家に特におすすめです。また、フルーティーさと甘さ、豊かなミネラル感が好みの方にもピッタリです。さらに、自分でコーヒーを淹れるのが好きな方にとっては、水質や温度による微妙な抽出の違いが楽しめるスマトラ式は、新たな挑戦として興味深いでしょう。
スマトラ式コーヒーはその特性上、コーヒーの風味をじっくりと味わいたいという方に向いています。一杯のコーヒーで多彩な風味を体験したい方、コーヒーに新たな冒険を求めている方に、スマトラ式コーヒーは新たな発見を提供してくれることでしょう。